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濁水対策 
 
  ダム貯水池の濁水長期化現象発生メカニズムとして、主に以下に示す3つの要因が挙げられます。
1.洪水濁水
 ダム流域に降った雨は多量の土砂を貯水池に運びます。一旦貯水池に流入した濁水は、もともとあった貯水池の水と混合しながらゆっくりと動きます。その結果、ダム放流水の濁りの時間変化は流入水のそれと比べると、平滑化されたような変化をします。つまり、濁りのピークは下がりますが、減少の仕方はゆるやかで、条件によっては濁水の長期放流などの問題につながります。

  貯水池に流入した濁水の動きは、洪水規模と貯水池容量のバランスによって変わります。下図は1洪水の総流入量Wfと貯水池容量V0の比β(=Wf/V0)による貯水池内での濁水挙動特性の違いを示しています。貯水池内すべての水が濁ってしまうような大規模洪水(β>1)になると、濁水対策をしてもあまり効果が望めません。後に述べる濁水対策はそれよりも小さな規模の洪水を対象にしています。
            β≪1                     β=0.5〜1                β>1

2.鉛直混合による濁質の再浮上
  夏期の貯水池では、日射の影響により、上層に温水、下層に冷水の安定した成層が形成され、上下の混合は行われにくい状態となります。一方、秋から冬にかけては、水面近くの水が徐々に冷やされ、上下の層が自然対流により混合されます。夏期に貯水池内に流入した微細濁質成分が沈降しきれず、下層に停滞することがあります。

  これらの濁質は、夏の間は上層に浮上することはありませんが、対流混合期には貯水池内の鉛直循環によって再び貯水池表層近くに浮上します。
3.渇水濁水
  貯水池に流入した微細濁質成分は、貯水池内の広範囲にわたって沈降・堆積します。洪水時などは貯水位が高いため、その範囲は貯水池末端部にまで及び、上流部分では主に段丘部に堆積します(写真参照)。この堆積濁質は貯水位の低下時に露出し、出水による浸食を受けて崩壊し、貯水池に流入します。この現象が見られる貯水池では、小規模な出水であっても濁水長期化を引き起こす可能性があります。

 貯水池内での濁質挙動
 貯水池に流入した濁水は、貯水池の水と混合しつつ、自分と密度の等しい層に侵入します。水の密度は水温が低いほど、濁りが大きいほど大きくなります(つまり重くなる)ので、多くの場合、濁水は水温躍層付近(水温が急変する層。これより上の水は軽く、下の水は重い。)に侵入することになります。その間にも濁質は自重により徐々に沈降していきますが、沈降の程度は濁質の大きさによって異なります。小さい粒子ほど沈降速度は遅く、粒径1μmの濁質粒子になると1日かかっても10cm程度しか沈降しませんので、貯水池の濁りがおさまりにくくなります。このように、貯水池内での濁水の動きとそれに伴う濁りの変化は、流入する濁質の量と大きさによって決まる沈降特性と下流方向への流下速度等によってダム流域ごとに異なり、それぞれの特性に応じ適切な対策を検討する必要があります。

濁水問題を解決するポイント
●貯水池への流入濁質の抑制
濁水問題の原因となる流入濁質の量を抑え、問題発生の可能性の低下を図ります。
●効率の良い排出
洪水時にはダムの有無に関係なく濁水が発生します。この機に濁水をなるべくダム外に排出し、洪水終了後にはきれいな水を放流するように制御します。
●濁質粒子の沈降促進
貯水池内に流入した濁質の沈降を促進し、放流しても問題のないきれいな水の容量を増やすとともに、対流混合期の再浮上の防止を図ります。
各種濁水対策とその効果
貯砂ダム
 貯水池に流入する前に濁質の沈降を促進し、トラップすることにより、貯水池への濁質流入量を低減します。主に粗い濁質成分を捕捉します。
 また、貯水位の低下時には、貯水池末端部における水位を維持し、渇水濁水発生源となる堆積土砂の露出を防止します。
バイパス
 洪水時、貯水池内へ濁質を流入させることなく、濁水を効率的に下流へ流します。(濁水バイパス)
 洪水後、貯水池からの放流水が濁水化する時期に、上流のきれいな水を貯水池を通さずにそのまま下流へ流します。(清水バイパス)
流入端フェンス
  流入濁水を貯水池表層水と混合させることなく下層に導き、表層付近のきれいな水を温存します。
   水温躍層の位置へ導いてやれば、流入濁水は躍層上を滑るように流れ、速やかに下流に到達するので、濁水を効率的に排除できます。
  また、温存したきれいな水を表層取水により放流すれば、濁水の長期放流を抑えることができます。
カーテンシステム
 洪水吐きが上部に設置されているダムでは流入端フェンスを設置して、流入濁質を下層に導いてもダム堤体付近で再浮上し、濁水長期化の要因となることがあります。そのため、洪水吐きの前面にコンクリート製又はナイロン製のカーテンを設置し、濁質の再浮上を押さえる手法がありますが、現在、その効果把握が行われています(片桐ダム、Lewistonダム、Shastaダム等)。カーテンシステムを設置することで、清澄水も温存できるため、選択取水施設が設置されているダムではより効果を発揮すると考えられます
選択取水設備
 放流口の高さを変えられる取水設備です。効率的な運用により、濁水の放流・きれいな水の放流を制御することができます。濁水浸入時には濁りのピーク層から放流することにより、濁水を早期に排出できます。一方、洪水終了後に表層取水に切り替えれば、表層付近の比較的きれいな水を放流することができます。 また、放流口位置には水温躍層が形成されやすいので、選択取水の運用によっては躍層を低下させ、貯水池下層に濁水を導くことができます。流入端フェンスと組み合わせることで、より効率的な濁水排除を行うことができます。

浚渫
 貯水池末端に堆積した土砂を取り除くことにより、水位低下時の堆積土砂の露出・渇水濁水の発生を防止します。このほか、間接的な濁水対策として、曝気循環設備の設置による躍層位置の低下などが考えられます。
 各種対策の選定
 貯水池内における濁水の挙動はもちろん、各種濁水対策を施策した後の効果は、流域ごとの濁質の物性や貯水池内の水理・水質特性(流れの状態や水温鉛直分布など)、その時々の気象条件により2次元・3次元的に多様に変化します。したがって、各種濁水対策の効果を適正に評価し、適切な対策を選定するにあたっては、各種条件での微妙な違いを考慮できる2次元あるいは3次元数値シミュレーションによる予測を行うことが重要です。
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